こんにちは。湖と月デザインです。
今回は、Web制作やSEOの話ではなく少し毛色の違う話をさせてください。
最近、業界のまわりで気になっているコミュニティの形についてです。
スクールを卒業した直後というのは、正直、何も持っていないことが多いですよね。仕事がない。実績がない。相談できる相手もいない。そんなタイミングで「案件を紹介できますよ」「仕事を振りますから」と声をかけられたら、心が動くのは当然な気がします。うちも独立したばかりの頃は、似たような気持ちを味わった記憶があります。
交流会やコミュニティに誘われること自体は、悪いことではないと思っています。人とつながる場があるのは、むしろありがたいことです。ただ、その先にある仕組みまで目を向けたとき、ときどき「あれ、これって……」と引っかかることがあって。今回はその引っかかりについて気づいた仕組みだけを書いてみようと思います。
よく見かけるコミュニティ「型」

スクールの卒業生を集める。交流会のような場で接点をつくる。そこで「仕事を振れる立場にある」ことを伝える。なんとなくコミュニティへ誘導されて、入会時に講習費を、その後は継続的に月会費を払う流れになる。案件は、そのコミュニティの中で回っていく、というパターンです。
一つひとつの要素だけを見れば、そこまでおかしなことではないんですよね。教育も、交流の場も、案件の仲介も、それぞれに価値があって、対価が発生すること自体は自然なことです。ただ、それらが一つの仕組みとして組み合わさったとき、少し様子が変わってくる気がします。そこは「仕事を得るための場」なのか、それとも「仕事をする人から収益を得るための場」なのか。この問いは、一度立ち止まって考えてみてもいいのかなと感じています。
教育・コミュニティ・仕事紹介は本来別のもの
スキルを教えること。人脈や交流の場を提供すること。実際の業務を発注すること。案件を仲介すること。
これらは本来、性質の違う四つの行為だったりします。それぞれに対価が発生するのは自然なことですし、そこ自体を否定するつもりはまったくありません。ただ、これらが一つの仕組みに組み込まれていくと、「自分は今、何に対してお金を払っているんだろう」というのが、だんだん見えにくくなっていくような気がします。講習費なのか、会費なのか、仲介手数料なのか。その境界が曖昧なまま進んでいくケースを、これまでいくつか見聞きしてきました。
余談ですが、特定商取引法には「業務提供誘引販売取引」という取引類型があって、「仕事を提供するので収入が得られる」と誘引しながら、その仕事に必要だとして商品やサービスを購入させる取引が対象になる、と消費者庁のサイトで説明されています。今回のような「有料コミュニティ+仕事紹介」の形が必ずこれに当てはまる、というつもりはまったくないのですが、こういう取引類型が法律上ちゃんと存在している、ということ自体は、なんとなく頭の片隅に置いておいてもいいのかなと思います。(参考:消費者庁 特定商取引法ガイド「業務提供誘引販売取引」)
「仕事を紹介する」と「仕事を受けるためにお金を払う」の境目
ここが、今回いちばん考えてみたいところです。
講習費はいくらなのか。月会費はいくらなのか。それは案件を受けるために必須のものなのか。入会しなければ仕事は受けられないのか。講習を受け終えていなければ案件は回ってこないのか。そもそも「仕事を紹介する」という行為と、「有料サービスに加入する」という行為の関係が、ちゃんと説明されているのか。
この境目がぼんやりしたままだと、卒業生の側は「学ぶために払っているのか、仕事をもらうために払っているのか」を、自分でもうまく整理できなくなってしまうんじゃないかなと思います。整理できないまま、なんとなく「払い続けている状態」に落ち着いてしまう。これがいちばん危ういところなのかもしれません。
報酬構造は透明になっているか

案件そのものについても、似たようなことが言えそうです。
クライアントからはいくら出ているのか。実際に手を動かす制作担当者にはいくら渡っているのか。ディレクションや営業、仲介にかかる費用はどのくらいなのか。そして、実際の作業量とその報酬は釣り合っているのか。「実績になるから」という理由だけで、低い単価がなんとなく正当化されていないか。
ここで一つ断っておきたいのですが、これは「中抜きをしている」と決めつけたい話ではないんです。仲介や営業にコストがかかるのは当たり前のことで、そこに手数料が発生すること自体はまったく不自然ではありません。気になるのはむしろ、その報酬構造そのものが「見えない」という点だったりします。見えないからこそ、受け取る側は妥当性を判断できないし、渡す側も説明する必要から逃れやすくなってしまう、という感じがしています。
実際、こんな話を耳にしたことがあります。スクールを卒業したばかりの方が、あるビジネスコミュニティに入って、そこからデザインの仕事をもらえるようになったそうです。Webサイト制作が10万円以下、名刺デザインが数千円、動画制作が数千円程度、LPのデザインや実装が数万円程度といった単価感だったようです。単価だけ見ると「駆け出しならこんなものかな」と思う人もいれば、「ちょっと安すぎるのでは」と感じる人もいるかもしれません。
興味深いのは、本人はその状況にとくに不満を持っていなかった、というところです。コミュニティ内に他にデザイナーがいないので仕事は継続的にもらえるし、ビジネスの進め方についても学べていると感じている様子でした。傍から見て条件がどうであれ、本人が納得しているなら、それを一概に「搾取されている」と決めつけるのは、たぶん違うんだろうなと思います。ただ、その納得は「他の相場を知らない」「他の選択肢を知らない」という状態の上に、たまたま成り立っているだけなのかもしれない、とも思うんです。この見分けのつきにくさこそが、この話をちょっとやっかいにしている部分なのかなと感じています。
なぜ卒業生は断りにくいのか
実績がない。相場を知らない。そもそも仕事の取り方自体を知らない。頼れる人脈もない。そんな状態で「ここで案件を断ったら、次の仕事がなくなるかもしれない」と感じてしまったら、多少条件に疑問があっても飲み込んでしまうのは、わりと自然な反応なんじゃないかと思います。「今は勉強期間だから」と自分を納得させて、疑問をいったん脇に置いてしまうこともあるでしょう。
これは個人の弱さというより、情報の非対称性と立場の弱さの問題として捉えたほうがしっくりくる気がしています。知っている側と知らない側、選べる側と選ばざるを得ない側。そのあいだにある落差が、こうした構造をなんとなく成り立たせてしまっているのかもしれません。
「実績になる」という言葉について
実績づくりが駆け出しの時期に大事だというのは、間違いないと思います。ただ、だからといって、低報酬や不透明な条件をなんでも受け入れる必要があるとは、あまり思えないんですよね。
実績と搾取のあいだには、うっすらと境界線があるような気がします。それはたぶん、「本当にその人の育成につながっているか」という一点なんじゃないかと。案件を通してスキルが伸びて、次の仕事につながる力がついているなら、それは健全な実績づくりだと思います。一方で、ただ安価な労働力として消費されているだけだとしたら、それは実績づくりという名目を借りた、ちょっと別のものになってしまっている気がします。
コミュニティに頼らない実績の作り方も実はある

ここまで、コミュニティ経由で実績を積むことの危うさについて書いてきましたが、じゃあ他にどうやって実績を作ればいいのか、というところにも少し触れておきたいと思います。
一つは、自分でメディアサイトを立ち上げてみることです。誰かに発注してもらうのを待つのではなく、自分でテーマを決めて、自分でサイトを作って、自分で運用してみる。誰の案件でもないので、報酬の透明性うんぬんを気にする必要もありませんし、企画からデザイン、コーディング、公開後の運用まで、まるごと自分の実績として語れるようになります。
もう一つは、自分で小さな企画を起こして、クリエイティブをつくってみることです。架空のブランドのロゴやサイトを作ってみる、身近な誰かのために小さなキャンペーンを企画してみる、といった形でも十分だと思います。
ここで一つだけ、大事にしてほしいことがあります。それは、無償や大幅な割引でやらないことです。「実績のためだから」といって無料でやってしまうと、結局それは「実績になるからタダでいい」という空気を、自分から強めてしまうことにもつながりかねません。自分の企画であっても、架空のクライアントを想定して、きちんと相場に近い金額を自分に対して見積もってみる。そのくらいの緊張感を持って取り組むほうが、実績としての説得力も、自分自身の相場観も、ちゃんと育っていく気がしています。
誰かに仕事を振ってもらうのを待つ状態から、自分で仕事を作れる状態へ。時間はかかりますが、こちらのほうが結果的に近道になることも、意外とあるんじゃないかなと思います。
制作事務所やマーケター側にも考えてほしいこと
ここまで受け手側の視点で書いてきましたが、これは一方的な批判のための記事にはしたくないなと思っています。
卒業生を育てること自体には、ちゃんと価値があります。教育に対価をもらうことも問題ではありません。コミュニティの運営にはコストがかかりますし、案件を仲介すれば手数料が発生するのも自然なことです。提供する側の努力やコストを、軽んじるつもりはまったくありません。
そのうえで、一つだけ問いを置いておきたいなと思います。仕事を求めている人と、教育・コミュニティ・案件を提供する側とのあいだで、その境界をちゃんと明確にできているでしょうか。何にいくら払ってもらっていて、それが何の対価なのか。相手にきちんと説明できる状態になっているでしょうか。
参加する前に確認しておきたいこと
もし今、スクールを卒業して、こうしたコミュニティへの参加を検討している人がいたら、次のようなことだけでも確認してから決めてもらえたらと思います。
何にいくら払うことになるのか。月額費用は何の対価として設定されているのか。仕事を受けるための条件は何か。報酬額はいくらで、誰が発注者なのか。仲介があるなら、その仕組みはどうなっているのか。講習を受けていないと仕事をもらえないのか。退会しても案件を受け続けられるのか。実績として公開してよいものなのか。契約書は交わされるのか。
これだけの項目を、入会前にすべて言葉で説明してもらえるかどうか。それだけでも、その場が健全かどうかを見極める、ちょっとした手がかりになる気がしています。
卒業生をどう育てるのが健全なのか
最後にもう一度、告発というより提案のつもりで書いておきたいと思います。
仕事を紹介すること自体は、悪いことではありません。コミュニティをつくることも、有料の講習を行うことも、それぞれに価値があります。大事なのは、そこに透明性と対等性があるかどうか、なんじゃないかなと。「仕事を与える側」と「与えられる側」という上下の関係ではなく、「仕事を一緒にするパートナー」として向き合えているか。結局そこに尽きるような気がしています。
個人的な考えを一つだけ添えるなら、本当に頼みたい相手がいるのなら、コミュニティを介さずに「あなたにお願いしたい」と直接声をかける形のほうが、お互いにとって誠実なんじゃないかなと思っています。もちろん、ディレクションや仲介にかかる適正な費用まで否定したいわけではありません。ただ、もし月々の会費に加えて案件ごとの手数料まで発生するのだとしたら、実際に手を動かす側にとってはなかなか厳しい条件になってしまう気がします。そのあたりの相場感は、お互いに大事にしていけたらいいなと思います。
せっかくのデザインやマーケティングのスキルが、持ち主にとって不利益になるような形で使われてしまうのは、やっぱりちょっと寂しいことだなと感じています。
これは特定の誰かを問題にしたいわけではありません。駆け出しの人が安心してこの業界に入っていけるように、業界全体でゆるやかに考えていけたらいいな、というくらいの気持ちで書きました。