こだわりポイント概要
- クライアント:小野郷(京都市北区、北山杉の産地)
- 依頼内容:移住促進のためのホームページ制作
- 担当範囲:企画・住民インタビュー・コンテンツ設計・デザイン・コーディング
- 制作のポイント:住民主体の情報設計/体験住宅による「お試しステップ」の導入
京都市内から、車でほんの少し走っただけで、空気の匂いも肌に触れる冷たさも変わる場所があります。北山杉の産地として、古くから静かに歴史を紡いできた「小野郷(おのごう)」。まっすぐに空へと伸びる杉の木立と、その間を縫うように流れる清滝川のせせらぎ。都会の便利さとは違う、深呼吸をしたくなるような時間が流れている村です。
そんな小野郷から、「移住促進のためのホームページを作りたい」というご相談をいただきました。京都で移住サイト制作を手がける中でも、今回は特に地域と移住希望者の橋渡しという役割が強く求められる案件でした。
移住への関心は、全国的に高まっている

小野郷の話をする前に、少し大きな話をします。総務省の調査によると、全国の移住相談窓口が受け付けた相談件数は、令和元年度に約31.6万件、令和3年度には約32.4万件と、調査開始以降の過去最多を更新し続けています。コロナ禍を機に、地方移住への関心が全国的に高まったと総務省自身が分析しています。
京都市も、小野郷を含む北部山間地域専用に「北部山間移住相談コーナー」を設けています。関心を持つ人は、全国的に増えている。問題は、その関心が、小野郷のような小さな集落にまで届く「入り口」があるかどうかです。
数字が語る、小野郷の現実
小野郷を訪れる前に、まず数字を見ていました。京都市北区役所が公表している資料によると、小野郷学区の人口は2008年時点で294人。それが現在、小野郷移住サイトの公式情報では約150人と案内されています。この約20年でほぼ半減した計算になります。

年齢構成を見ると、さらに厳しい数字が出てきます。2005年時点のデータで、65歳以上の人口が42.3%。15〜64歳が53.1%、0〜14歳はわずか4.7%です。当時の北区全体の高齢化率が23.2%だったので、その2倍近い水準だったことになります。小野郷小中学校は2007年に休校しました。北区の公式ページには、その理由が「町中へ若年層が転出する影響で」と、はっきり記されています。

小野郷・中川・雲ケ畑の「北山三学区」は、北区の面積の約60%を占めながら、著しい人口減少と学校の休校、バス路線の廃止に直面している。これは私たちの推測ではなく、北区自身が公表している言葉です。

そしてもうひとつ、現地で調べてわかったことがあります。小野郷は「市街化調整区域」に指定されている地域でした。「新築の敷居が高い」というのは、単なる慣習の話ではありません。都市計画法にもとづく、実際の規制です。数字だけでなく、この規制という事実も、今回のサイト設計における前提になりました。
「だれでもいい」わけじゃない、という誠実さ

最初に小野郷を訪れ、ヒアリングを重ねる中で見えてきたのは、ここが「とにかく人が増えればいい」「だれでもいいから来てほしい」という場所ではない、ということでした。
小野郷は、山々に抱かれた歴史ある土地です。市街化調整区域という指定がある以上、いわゆる分譲地のように新しい家をすぐ建てられるわけではありません。景観を守るための決まりもあり、新築のハードルは決して低くない。それは金額だけの問題ではなく、古くからそこにある建物を譲り受け、歴史ごと住み継いでいくという、土地に対する「覚悟」が求められるからです。
「業者に丸投げするのではなく、一緒に悩みながら、手作りのようにつくりたい」
担当の方からいただいたこの言葉は、今回のプロジェクトの方向性を決める、大事な出発点になりました。テンプレートに当てはめるのではなく、対話を重ねてその土地だけの「らしさ」を形にしていく。それは、こちらが制作において普段から大切にしている進め方とも重なるものでした。
画面の向こうに、暮らしの温度を

小野郷を何度も歩く中で強く感じたのは、住民同士の「つながりの強さ」でした。人口約150人、世帯数にすると130ほどの小さな集落です。お互いの顔が見えるのは当たり前。採れたての野菜を分け合ったり、困ったときには自然と手が差し伸べられたりする関係が、日常の中に息づいています。
この温度感を、移住を検討している人にどう伝えるか。そこで採用したのが、「住民が主役になるサイト構成」という方針です。
風景写真や施設情報だけを並べる一般的な移住サイトの型ではなく、実際にこの村で暮らし、働いている人たちの顔をそのまま載せる。そのために、住民の方々へのインタビューを一件ずつ行いました。縁側でお茶をいただきながら、一対一でじっくりと話を聴く。何に困り、何に助けられ、なぜこの場所を選んだのか。そこで語られる飾らない言葉が、移住検討者にとって最も信頼できる情報になると考えたからです。「試着」するように、この場所と出会う。
説得力の核:体験住宅という「お試しステップ」

今回の制作で特にこだわったのが、実際の暮らしを体感できる「体験住宅」ページの設計です。移住サイトとしての説得力は、ここに集約されていると考えています。
移住は人生における大きな決断です。人との距離が近く、冬には厳しい寒さもあるこの土地では、いきなり「住む」と決めることは、迎える側・来る側の双方にとって負担の大きい選択になりかねません。
多くの移住サイトは「ようこそ」「お待ちしています」という歓迎の言葉を前面に出します。しかし移住希望者が実際に不安を感じるのは、その先にある「合わなかったらどうしよう」「後戻りできなくなったらどうしよう」という部分です。だからこそ、いきなり本格的な移住を提示するのではなく、まず「お試し」できる場を用意することが必要でした。

これは私たちの感覚だけの話ではありません。移住検討者への調査(2022年、ニュートラルワークス調べ)では、移住を思いとどまる理由の約半数が「人間関係や金銭的な不安」だと答えています。同じ調査で、検討時に参考にした情報源は「物件情報サイト」に次いで「自治体のホームページ」が多いという結果も出ています。つまり、自治体や地域のサイトは、まさにその不安を抱えた人が実際に訪れる場所だということです。
洋服を試着するように、親戚の家に泊まりに行くように。朝の霧の深さ、夜の静けさ、近所の人と交わす挨拶を、まずは短期滞在で体感してもらう。合わなければそれでよく、合うと感じられれば次の一歩に進める。この「後戻りできる余白」があることが、移住検討者の心理的なハードルを下げると考えました。
サイト上でも、体験住宅の情報(滞在中にできること、相談窓口、次のステップ)は特に丁寧に案内しています。移住という重い決断の手前に、小さな「お試し」の選択肢が用意されている。この設計自体が、小野郷という地域の誠実さを最も伝える要素になったと感じています。
地域の魅力を、情報設計で伝える
完成したサイトには、住民の顔と言葉が数多く並んでいます。これは、小野郷が景観や立地だけでなく、そこに暮らす人々によって成り立っている地域であることを示す材料でもあります。

- 業者主導ではなく、地域と一緒につくるという姿勢
- 住民インタビューによる、実際の暮らしの言葉
- 体験住宅という、移住前の心理的ハードルを下げる仕組み
業者主導ではなく、地域と一緒につくるという姿勢。住民インタビューによる、実際の暮らしの言葉。そして、体験住宅という、移住前の心理的ハードルを下げる仕組み。この3つを情報設計に落とし込んだことで、移住促進サイトは単なる情報ページではなく、地域と移住希望者をつなぐ入り口として機能するものになったと考えています。
人口がこの約20年でほぼ半減し、高齢化率が北区平均の2倍近い水準にある。全国の空き家率も2023年時点で13.8%と過去最高を更新しており、小野郷自身も2015年から地域内に「空き家対策チーム」を置いて向き合ってきました。この数字だけを見れば、厳しい現実です。でも、その数字の裏側には、お互いの顔が見える暮らしがあり、それを求めて訪れる人が、全国的に増えています。数字と、その先にある暮らしの温度。その両方を伝えることが、今回のサイトの役割だったと思っています。
同様に「地域の魅力をどう伝えればよいか分からない」「移住・定住促進サイトを検討している」という自治体・地域事業者の方は、一度ご相談ください。

